公開日:11/15/2025
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コーヒーは「豆」と呼ばれることが多いですが、
正確には コーヒーノキという植物の種子 を加工したものです。
この植物としての理解が、
コーヒーの味わいを体系的に理解するための最初の一歩になります。
「コーヒーの味」は、まずこの植物がどのように育つかで方向性が決まります。
コーヒーには約120種以上ありますが、
人が飲用するのは主にこの2種:
アラビカには多くの品種があります。
品種はワインのブドウ品種に近い概念で、風味の“遺伝的土台”を決めます。
例:
品種は 風味の方向性 を決め、
後工程で“上書き”できるものではありません。
外皮
果肉
ミューシレージ
パーチメント
シルバースキン
生豆(種子)
精製とは、この果実構造をどう処理するかという工程です。
ここで風味の“明るさ”“甘さ”“クリーンさ”が方向づけられます。
コーヒーの味わいは、
上流工程 → 下流工程という順に影響が大きい 特徴があります。
ここで 基礎的な個性のほぼすべてが決まる。
ここでは 個性を作り変えることはできません。
できることは、
ということだけです。
生豆の品質が低ければ、
どれだけ焙煎や抽出を工夫しても本質的な改善はできません。
逆に高品質な豆であれば、
正確な焙煎と均一な抽出によって、
が自然と立ち上がります。
コーヒーは「素材が一番大事」。
焙煎・抽出は、その個性を壊さず導き出すための技術。
コーヒーの味わいは、植物そのものの性質だけでなく、
どこで、どのように育ったか によって大きく変わります。
ワインで「テロワール(Terroir)」という言葉が使われるように、
コーヒーにも 土地の個性がそのまま味に表れる という特徴があります。
ここでは、コーヒーの「育つ環境」が風味にどう影響するのかを整理します。
コーヒーは主に、赤道を中心とした
北緯25度〜南緯25度 に広がる帯状のエリアで生産されています。
この地域は
が揃っており、コーヒー栽培に適しています。
主な生産地域:
コーヒーの味に最も影響する環境要因といわれるのが 標高 です。
標高が高い地域(1200m〜2300m級)
例:エチオピア、ケニア、コロンビア高地
標高が低い地域(〜800m)
例:ロブスタの主要産地、ブラジルの一部平地
標高は風味の方向性を左右する、極めて重要な要素です。
土地の組成や気候は、コーヒーの味に直接関わります。
土壌(Soil)
気候(Climate)
微気候(Microclimate)
同じ国、同じ産地でも
山の向き、風の通り道、森林の影、霧の発生などによって
味が変わることは珍しくない。
実際、同じ農園内でも小区画(ロット)ごとに明確な違いがある。
あくまで「傾向」ですが、地域ごとに特徴があるため
テイスティングやメニュー開発にも役立ちます。
大切なのは、
オリジンの特徴は “固定された味”ではなく“クセの方向性” ということ。
たとえば:
エチオピア=必ず華やか
ブラジル=必ずナッツ系
というわけではなく、
精製、品種、標高、収穫年、農園の管理などによって大きく変わります。
ただし、
風味の軸(酸の明るさ、重さ、香りの質)はオリジンに紐づくことが多いです。
コーヒーの果実(チェリー)は、収穫後すぐに
外皮・果肉・粘質(ミューシレージ)・殻(パーチメント)を取り除き、乾燥させる必要 があります。
この「果実をどう処理するか」の工程を 精製(Processing) といいます。
精製は、コーヒーの味の「方向性」を大きく決める極めて重要な工程です。
品種やオリジンと同じく、精製は上流工程 であり、
焙煎や抽出では“作り替える”ことはできません。
これらが香り・甘さ・酸の質・質感など、
風味の最初の方向性 をつくるからです。
精製はワインでいう「醸造」に近い立ち位置を持ち、
後工程では消せない個性を生みます。
世界には多くの精製方法がありますが、
基本となるのは次の3つです。
果肉を取り除いた後、ミューシレージを水で洗い流し、乾燥させる方法。
ジャスミン、柑橘、紅茶のような透明感。
ミューシレージを残さず洗うことで、
発酵の影響が最小限になり、果実感より“豆そのもののキャラクター”が表れるため。
果肉をつけたまま乾燥させ、後で外皮と果肉を取り除く方法。
ベリー、トロピカルフルーツ、ワイン、ジャムのような甘い香り。
果肉がついたまま時間をかけて乾燥するため、
果実の糖や香りが種子の周りで変化し、複雑なフレーバーが形成される。
果肉を除去したあと、ミューシレージを残したまま乾燥する方法。
ウォッシュドとナチュラルの中間。
蜂蜜、キャラメル、ストーンフルーツ。
近年はワイン製法の影響も受け、
精製はより多様で複雑な方向に進化しています。
密閉タンクで酸素を遮断し、
乳酸菌や酵母の働きを強く出す発酵方法。
ワインの醸造法を応用した方法で、
タンク内を二酸化炭素で満たしながら発酵を進める。
など、国・農園ごとの革新的プロセスが急増中。
理由は単純ではありません:
同じ国でも、地域や農園によって全く異なるアプローチが取られます。
ウォッシュドコーヒーの例:グアテマラ ワイカン ウォッシュド
ナチュラルコーヒーの例:エチオピア グジ G1 ナチュラル
アナエロビックコーヒーの例:ニカラグア・フィンカ・ブエノス・アイレス アナエロビックナチュラル
収穫・精製された生豆は青緑色で、ほとんど香りがありません。
この生豆に熱を加え、複雑な反応を起こして香りや甘さ、酸の質、質感を生み出す工程が焙煎です。
焙煎はコーヒーの最終的な味わいを左右する重要なステップですが、
品種やオリジン、精製で決まった個性を作り変えることはできません。
あくまでも 素材の持つポテンシャルを壊さずに引き出す工程 です。
焙煎では熱によって水分が抜けながら、複数の化学反応が連続的に進行しています。
一般的に
「ドライング」
「メイラード」
「デベロップメント」
と区分されますが、実際には明確に区切られているわけではありません。理解・議論のために分けている“モデル”と考えると正確です。
というのが本質です。
豆が黄色く変わり、最も劇的に水分が抜ける段階です。
この時期に内部温度が安定し、後の反応がスムーズに進みます。
メイラード反応が活発になり、
香り・甘さ・酸の質、ボディの基盤が形づくられます。
メイラード反応自体はこのフェーズだけでなく、焙煎全体で起き続けています。
ただしこのタイミングで最も明確に味づくりへの影響が大きく感じられるため、
一般的に「褐変フェーズ」と呼んで説明します。
内部の水蒸気圧によって豆が“パチッ”と割れる現象です。
コーヒーらしい香りが一気に立ち上がり、風味の輪郭が現れ始めます。
1ハゼ後から焙煎終了までの時間です。
ここではフレーバーの具体性や甘さの質、酸の丸み、質感、余韻などが決まります。
開発の調整こそが、焙煎の最もクリエイティブな部分です。
焙煎直後の豆はガスを多く含み、味が不安定です。
焙煎後に数日〜数週間かけてガスが抜け、味や香りが落ち着きます。
これは品種や密度、精製、焙煎プロファイルによっても変わるため、
ロースターは用途に合わせて焙煎日や提供日の調整を行っています。
焙煎は、品種・オリジン・精製で決まった個性を
どう表現し、どう整えるかの工程です。
これらはすべて素材のポテンシャルの範囲内で行うもので、
焙煎が上書きして作れるものではありません。
よい素材であれば、適切な焙煎によって自然と良さが立ち上がり、
その豆ならではの個性がはっきりと現れます。
素材の個性を壊さず、最大限に引き出すこと。
それが焙煎の役割です。
【ロースター必見】アグトロンスケール完全解説!理想の焙煎度を測る秘訣とおすすめ測定器
コーヒーの味は、豆の産地や精製、焙煎によって方向性が決まりますが、
実際にその個性を“どれだけ立ち上がらせられるか”は粉砕の精度に大きく左右されます。
粉砕は、抽出が始まる前の最終ステップであり、
味の安定性と透明感を生むための土台です。
コーヒーの抽出は、水がお湯に触れた表面から成分が溶け出して進みます。
そのため、粉の大きさによって抽出の進むスピードが変わります。
この原理そのものはシンプルですが、実際の現場で最も重要なのは、
単に「細かい」「粗い」ではなく、粒の大きさが揃っているかどうかです。
粒が揃っているほど、お湯が全体に均一に浸透し、
甘さ・酸・香りが滑らかにつながります。
細かすぎる挽き目は、お湯の通り道に偏りを生みやすくなります。
粉の層が詰まり、水が流れにくくなるため、
お湯は通りやすい部分だけを選んで流れてしまいます。
この状態は、コーヒーベッドの内部に
細い穴のような通り道(=チャネル)ができることで起きます。
チャネルができると:
という現象につながります。
ここで感じる渋味や雑味は、
「細挽きだから出る」のではなく、
“抽出が均一に進まなくなること”が原因です。
均一な粒度を作るためには、
グラインダーの刃の性能が大きく関わります。
粒度が揃うと抽出が均一になり、
酸・甘さ・質感が自然にまとまり、コーヒーのポテンシャルが出やすくなります。
挽き目は“固定の設定”ではありません。
豆の種類、焙煎度、抽出方法によって
適切な挽き目は大きく変わります。
たとえば:
挽き目は「抽出のスイッチ」のようなもので、
風味の方向性や味の輪郭がここで決まります。
粉砕の基本を理解したうえで、
代表的な抽出方法ごとの挽き目の目安をまとめると次のようになります。
どの器具でも共通するのは、
「抽出が均一に進んでいるか」 という点です。
粉砕は単なる下準備ではなく、
抽出の均一性と味の再現性をつくる重要な工程です。
挽き目の選択次第で、同じ豆がまったく違う味に感じられます。
粉砕は、コーヒーのポテンシャルを“引き出せる状態にする”ための工程です。
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抽出は、お湯がコーヒーの粉に触れ、
香り、酸、甘さ、苦味、質感といった成分が水に溶け込んで一杯のコーヒーになる工程です。
抽出は魔法のように見えますが、
実際には 「水がどのように粉に浸透し、どの成分がいつ溶け出すか」 という
非常にシンプルで物理的なプロセスで成り立っています。
この工程の精度が、
コーヒーの透明感・甘さ・後味・立体感を大きく決めます。
コーヒーの抽出は、主に次の3つの現象が重なって進みます。
コーヒーの成分が水に溶け出す
溶け出した成分が水の中に広がる
湯が粉の層を通り、次々に新しい表面に触れ続ける
この3つが均一に進むほど、
コーヒーの持つ個性がそのままきれいに一杯へ反映されます。
抽出にはさまざまな変数がありますが、
基本的には次の4つで味が決まります。
高いほど抽出は進みやすく、低いほど穏やかになる。
スペシャルティコーヒーの場合、ハンドドリップでは 96〜100℃ が推奨です。
お湯がどれくらい長く粉に触れているか。
短すぎると薄く、長くしすぎてもあまり効果はありません。
粉とお湯をどれくらい動かすか。
攪拌は、粉全体に均一にお湯を行き渡らせるための手段です。
適度な攪拌は、甘さと透明感を引き出すための重要な要素です。
第5章で触れたとおり、挽き目は抽出速度を決める中心的な変数です。
挽き目の調整は、
味の方向性を決める「レシピの中核」と言えます。
コーヒーに含まれる成分は、一度にすべて溶け出すわけではありません。
抽出の進むスピードが均一であれば、
この3つがきれいにつながり、
味のバランスが調和し、甘さと透明感がしっかり出ます。
抽出が「強すぎる」「弱すぎる」よりも問題なのは、
抽出が“均一に進んでいない”ことです。
この状態では
酸・甘さ・苦味がばらばらに出てしまい、
味が濁ったり、雑味を感じる原因になります。
不均一な抽出は、
挽き目・粉の配置・注ぎ方・フィルターの形状など
さまざまな要因で起きます。
抽出方法は大きく「重力式」と「圧力式」に分かれます。
どちらが上ではなく、
設計思想が根本的に異なります。
抽出は、良い部分だけを取り出す作業ではありません。
素材が持っているポテンシャルを、
できるだけ均一に、壊さずに取り出す作業です。
これらが整えば、
自然と甘さ・透明感・立体感が現れ、
そのコーヒーならではの特徴が美しく出てきます。
抽出は魔法ではなく、
一杯の中で素材のストーリーを再現するための技術です。
【徹底解説】ハンドドリップの基本|比率・温度・蒸らし・撹拌までプロが科学的に解説
コーヒーの味わいは、
ひとつの工程だけで生まれるものではなく、
いくつものステップが積み重なって形成されています。
これまで紹介してきたプロセスを振り返ると、
それぞれが明確な役割を持ち、
上流から下流へと“味の情報”が受け渡されていく構造になっています。
まず、味の基礎になるのは 生産段階(上流) です。
ここまでの工程で、
コーヒーがどんな方向性の個性を持つか がほぼ決まります。
たとえば:
これらは、焙煎や抽出で“作る”ことはできません。
上流で生まれた個性を、そのまま理解し、扱う必要があります。
焙煎は、素材が持つ個性を
どのように表現するか決める工程 です。
それによって、
甘さの質、酸の丸み、香りの立ち上がり、質感の密度が変わります。
ただし、焙煎は味の“設計図”を書き換える工程ではありません。
素材が持っている特徴を壊さず、
最も魅力的に見える角度へ導く工程です。
粉砕と抽出は、
これまで積み上げられてきた味の情報を
「一杯の液体としてどう表現するか」を決める工程です。
粉砕では、
粒度と均一性が抽出の安定性を決めます。
抽出では、
温度・時間・挽き目・攪拌・流速などをコントロールしながら、
コーヒーのポテンシャルを均一に取り出します。
この段階で行うべきことは、
個性を作り変えることではありません。
それまでの工程で生まれた個性を、歪めず、ムラなく立ち上げること。
素材の良さがそのまま一杯に現れたとき、
コーヒーはもっとも透明で、複雑で、甘く感じられます。
この記事のタイトルでもある
「コーヒーの味はどこで決まる?」
という問いに対し、まとめると次のようになります。
上流で決まった個性は、
焙煎や抽出によって作り替えることはできません。
できることは、
ポテンシャルを壊さずに最大限に表現すること だけです。
これがコーヒーの味づくり全体の構造であり、
上流から下流までの工程が繋がることで、
一杯のコーヒーが完成します。
コーヒーは、ただの飲み物ではなく、
多くの人が関わる工程が“連携してできあがる体験”です。
工程を知ると、
その背後にあるストーリーや技術への理解が深まり、
一杯の味わいがより豊かに感じられます。
コーヒーの味は、ひとつの工程の成果ではありません。
多くの工程が積み重なって生まれる「総合芸術」です。