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イブリック(ジェズヴェ)でコーヒーの常識が変わる。世界最古にして最新の「究極の淹れ方」

公開日:1/25/2026

ドリップコーヒー器具比較・おすすめ深堀り
イブリック(ジェズヴェ)でコーヒーの常識が変わる。世界最古にして最新の「究極の淹れ方」

コーヒーの歴史を遡ると、私たちは一つの不思議な道具に突き当たります。

それは「イブリック(一般的にはジェズヴェと呼ばれます)」という、柄の付いた小さな手鍋です。

「あぁ、トルココーヒーのことでしょ? 苦くてドロドロしたやつ」

もしあなたがそう思っているなら、今この瞬間、その認識は過去のものになるかもしれません。

現在、世界のトップバリスタたちが競うスペシャルティコーヒーの舞台では、このイブリックが「豆のポテンシャルを最もダイレクトに引き出す魔法の器具」として熱狂的に再定義されています。

フィルターを通さないからこそ味わえる、圧倒的なボディ感とシルキーな口当たり。

そして、かつてのイメージを覆すほどクリーンで華やかな酸味。

今回は、世界最古の抽出法でありながら、最も先鋭的な進化を遂げているイブリックの世界を深掘りします。

なぜ今、イブリックなのか?スペシャルティコーヒー界で再評価される「未ろ過」の衝撃

かつてのイブリックは、深煎りの豆を何度も沸騰させ、砂糖をたっぷり入れて飲む「伝統芸能」のような側面が強いものでした。

しかし、現在の「第3の波(サードウェーブ)」以降の文脈では、その評価は一変しています。

その最大の理由は、コーヒーの「オイル(脂質)」にあります。

ペーパーフィルターでのドリップは、スッキリとした味わいを生む一方で、豆に含まれる良質なオイルを吸着してしまいます。

しかし、イブリックは未ろ過の「浸漬法(しんしわざ)」です。

エチオピアのフローラルな香りや、パナマ・ゲイシャの驚くほど甘い蜜のような質感。

これらを一滴も逃さずカップに閉じ込めることができるのは、イブリックならではの特権です。

Cezve/Ibrik Championship (WCC) などの世界大会では、極浅煎りの豆を使い、驚くほど透明感のある一杯が提供されています。

伝統的な「苦い飲み物」は、今や「最もテロワールを感じる抽出法」へとアップデートされたのです。

理詰めで考える。イブリック抽出を劇的に美味しくする3つの構造的原理

「ただの鍋で煮るだけでしょ?」という誤解を解くために、まずはその科学的なメカニズムを整理しましょう。

美味しく淹れるためには、3つの重要な物理的要因をコントロールする必要があります。

① 「極細挽き」による表面積の最大化

イブリックに使う粉は、指紋の溝に入るほどの「パウダー状」に挽きます。

これは、お湯が粉の芯まで浸透する時間をゼロに近づけるためです。

表面積を極限まで広げることで、短時間で爆発的なフレーバーを引き出すことが可能になります。

② 対流をデザインする独特の形状

ジェズヴェの「底が広く、口が狭い」という形には意味があります。

加熱すると底から上昇気流が生まれ、狭い口に向かって液体が効率よく対流します。

この時、表面に形成される細かい泡(フォーム)が蓋の役割を果たし、香気成分が空気中に逃げるのを防いでくれるのです。

③ 精密な火力と「60℃スタート」の法則

現代のスペシャルティ・イブリックにおいて、常温の水から始めるのは少数派になりつつあります。

あえて60℃程度のお湯からスタートすることで、抽出時間を2分前後に短縮します。

これにより、加熱しすぎによる「煮詰まった苦味」を避け、豆が持つフレッシュな酸味だけを救い出すことができるのです。

【完全再現】世界チャンピオンが教える「現代的ジェズヴェ・レシピ」2選

ここでは、実際に競技会やプロの現場で使われている、再現性の高いレシピを紹介します。

Turgay Yildizli 氏(2013年 世界王者)の基本レシピ

彼は「Specialty Turkish Coffee (STC)」の第一人者であり、最もスタンダードな現代式を確立しました。

  1. ジェズヴェに粉を入れ、60℃のお湯を注ぎます。
  2. 竹ベラなどでダマがなくなるまでしっかりと撹拌します。
  3. 弱火から中火にかけ、約2分で泡がじわじわとせり上がってくるように火力を調整してください。
  4. 泡が口のラインまで到達したら、沸騰させずに即座に火から下ろします。
  5. カップに注ぎ、粉が完全に沈むまで2〜3分待ってから上澄みを楽しみます。

Sergey Blinnikov 氏(2019年 世界王者)のモダン・レシピ

よりクリーンで、ティーライクな質感を求めるならこちらの比率がおすすめです。

本物を選びたい人のための道具ガイド。一生モノの銅製からコスパモデルまで

形が似ていれば何でもいいわけではありません。

イブリックにおいて「材質」は味に直結する最も重要な要素です。

1. 最高峰の機能美:SOY(ソイ)

トルコの職人が一つひとつ手打ちで仕上げる銅製ジェズヴェです。

内側に銀メッキが施されており、銅の圧倒的な熱伝導率を活かしつつ、金属臭を抑えています。

プロの大会で使用率が最も高いのは、この「SOY」です。

まさに一生モノの道具と言えるでしょう。


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2. スペシャルティのための設計:STC (Specialty Turkish Coffee)

前述のTurgay Yildizli氏がプロデュースしたモデルです。

注ぎ口の形状や、温度管理のしやすさが追求されています。

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3. まずはここから:コスパモデル

「まずは体験してみたい」という方には、安価なモデルも選択肢に入ります。

ただし、アルミニウム製(銅メッキ)の場合などは、熱伝導性が低いため投入温度を高くするほか、火力を少し強めにするなどの調整が必要です。

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4. 本格派の憧れ:サンド・コーヒー・ヒーター

もしあなたが究極の再現性を求めるなら、砂を使ったヒーターも検討に値します。

砂の中にジェズヴェを埋めることで、側面からも均一に加熱でき、ガス火よりも格段に安定した抽出が可能になります。

自宅で始めるイブリック生活。よくある疑問と楽しみ方のコツ

いざ始めてみると、いくつかの疑問にぶつかるはずです。

「粉が口に入って不快じゃないの?」

これが最大の懸念点でしょう。

しかし、正しく極細挽きにされた粉は、カップに注いでから数分待てば驚くほど綺麗に底に沈みます。

むしろ、沈殿するのを待つ数分間に、コーヒーの温度が少しずつ下がり、味わいが開いていく過程を楽しむのがイブリックの粋な飲み方です。

「どんな豆が合うの?」

おすすめは、中煎りのエチオピアやケニアです。

イブリックの強い熱エネルギーは、これらの豆が持つ果実味を強烈にブーストしてくれます。

最初は1:9程度の比率から始めて、自分の好みの「濃厚さ」を探ってみてください。

まとめ:イブリックは豆のテロワールを映し出す鏡である

イブリック(ジェズヴェ)は、単なる古い道具ではありません。

それは、現代のコーヒー愛好家が「豆の真実」に触れるための、最もシンプルで強力なデバイスです。

紙も布も通さず、水と火と粉だけで作り出されるその液体は、あなたが知っているコーヒーの枠組みを軽々と飛び越えていくでしょう。

手間はかかるかもしれません。

でも、砂の上で、あるいは火の上で、じわじわと泡がせり上がってくる瞬間を待つ時間は、至福のひとときです。

ぜひ、その手で世界最古にして最新の体験を掴み取ってください。

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